音と紅茶の時間TOP恋うさぎ〜Patisserie Ravigote雪うさぎ
2013年08月03日

雪うさぎ

「・・・が・・・ったら・・・から・・・」

小高い丘のふもとにある小さな家のベッドの上で、
紅茶うさぎは、今朝も泣きながら目を覚ましました。

「何の夢を見ていていたんだろう?いつも見る夢」

真っ赤な目で、ふーっとため息をつきながら、
水道の蛇口をひねって、ケトルに勢いよく水を注ぎます。

ケトルを火にかけている間に、ジャムサンドを作ります。
今日はイチゴジャムとマーマレード。
お皿は二つ。

ケトルから、しゅんしゅんと音を立てて、湯気が吹き出します。
温めたガラスのティーポットを二つ、茶葉をティースプーンですくって入れます。

ティーポットに勢いよくお湯を注ぎます。
一つのティーポットには、半分のお湯。

砂時計をひっくり返し、くるくると茶葉が踊るのをぼんやりと眺めます。

白いティーポットとティーカップ。氷が上まで入ったグラス。
それぞれに、紅茶を注ぎます。

トレイに白いティーポット、ティーカップ、アイスティー、
それから二つのお皿にのったジャムサンド。

トレイをテラスに運んで、ティーテーブルに載せました。
椅子にすわった紅茶うさぎは思います。

「なぜ、いつも二人分の紅茶を用意してしまうのかしら?」

温かい紅茶を飲みながら、冷たいアイスティーの氷が
溶けていくのを眺めます。

「だって、そうするのが、当たり前のような気がするんだもの」

二つのお皿にのったジャムサンドを食べた紅茶うさぎは、
最後に氷の溶けたアイスティーも飲み干しました。

「おなかいっぱい。さて、今日はさくらんぼを摘みに行こう」

*****

さくらんぼの木に登って、腰につけた布の袋に、
どんどんさくらんぼを摘んで入れていきます。

「さくらんぼのジャムは、すぐなくなっちゃうから、
 たくさん作らなきゃね。だって、あのヒトが好きだから」

「あのヒト?あのヒトって誰だっけ?」

摘んださくらんぼをきれいに洗って種をはずし、
鍋にお砂糖とレモン汁を入れてコトコトゆっくり煮ていきます。

灰汁をすくいながら、ゆっくりゆっくり。

「甘酸っぱいにおいも大好きなんだよね・・・」

できたさくらんぼのジャムを半ダースの瓶に詰めました。

10時のお茶はオーブンで焼いたクッキーにさくらんぼジャムを
挟んで作ったジャムサンドクッキー。

トレイの上には温かい紅茶の入ったティーポットにティーカップ。
アイスティー。クッキーののったお皿は二つ。

トレイでテラスに運んで並べます。

「だって、そうするのが、いつものことなんだもの」

紅茶うさぎは、温かい紅茶を飲んで、アイスティーを飲んで、
二皿分のクッキーを食べました。

****

イチゴジャム、さくらんぼジャム、マーマレードジャム、
マスカットジャム、キイチゴジャム、ブルーベリージャム、
たくさんの瓶が、棚に並ぶころ、冬が来ました。

「・・・が降ったら、・・・くるから・・・」

紅茶うさぎは、また泣きながら目を覚まします。

二人分の紅茶を入れながら、またぼんやり考えます。

「今日は丘の方に行ってみよう。
 だって私、丘に登って町を眺めるのが大好きだったような
 気がするんだもの」

二人分の紅茶を飲み干した紅茶うさぎは、小高い丘に向かいます。

「いつもこの道を誰かと歩いていた気がする・・・」

突然、紅茶うさぎの頭の中で
「イッテハイケナイ、イッテハイケナイ」
という小さな声が聴こえました。

紅茶うさぎは、ハッとして、走って丘を降りました。

*****

「雪が降ったら、会いにくるから・・・」

紅茶うさぎは、ぱちんと目を覚ましました。
とても寒い日。
吐く息が白い中、紅茶うさぎはケトルでお湯を沸かしました。

トレイに温かい紅茶とアイスティー、二つのお皿には
さくらんぼのジャムサンド。

雪がちらちらとテラスに舞い降ります。

椅子に座って、毛糸で編んだひざかけをかけます。
ふと見ると、もう一つの椅子に、白いウサギが座っています。

「ああ、雪うさぎ、私、アナタを待っていたのね。
 どうして忘れていたのかしら?」

雪うさぎは、ジャムサンドをつまみながらアイスティーを
飲み、少し困った顔で笑いました。

「紅茶うさぎ、キミの入れる紅茶とジャムサンドは、
 どうしていつもこんなにおいしいんだろうね?」

*****

それから毎日、二人はテラスで一緒に紅茶を飲んで、
ジャムサンドや、ジャムクッキーを食べました。

テラスに運ぶトレイの上には、白いティーポット、ティーカップ、
アイスティーに、二つのお皿。

アイスティーを飲み干すと、雪うさぎはまた明日、と
小高い丘の方に帰っていくのです。

*****

ある少し暖かな日、紅茶うさぎは、胸がドキンとして目を覚ましました。

二人分の紅茶と、ジャムサンドののったお皿を二つ、
トレイにのせて、テラスに運ぶと、雪うさぎが椅子に座っていました。

アイスティーとさくらんぼのジャムサンドを食べ終わった
雪うさぎが言いました。

「紅茶うさぎ、たくさんのおいしい紅茶とジャムサンドをありがとう。
 ボクはもう、そろそろいかなきゃいけない」

「雪うさぎ、アナタにもう、会えないの?」

紅茶うさぎがぽろぽろ涙をこぼすと、雪うさぎは少し困った顔で笑い、
そっと触れるか触れないかくらいに頭をなでました。
冷たい冷たい手。

丘に続く道を歩く雪うさぎを紅茶うさぎは追いかけます。

紅茶うさぎの頭の中で
「イッテハイケナイ、イッテハイケナイ」
という小さな声が聴こえました。

「それでも、行かなきゃ。雪うさぎが消えてしまう!」

*****

小高い丘の上には、小さなお墓がありました。

 <雪うさぎ ここに眠る>

その前に、雪うさぎは立って、紅茶うさぎを待っていました。

「ああ、雪うさぎ、私、何もかも思い出した」

秋の終わりの日、雪うさぎは、こほこほと咳を出し、
お薬も効かず、そのまま雪のように冷たくなってしまったんだ。

毎日、お墓の前で溶けてしまうほど泣いていた紅茶うさぎの前に、
雪と一緒に会いに来た雪うさぎは、ひと冬、一緒に紅茶を飲み、
ジャムサンドを食べ、そして雪と一緒に消えてしまったんだった。

「どうして私、こんな大切なこと忘れていたのかしら?」

「あんまりキミが泣くから、雪と一緒に、思い出も消えるように
 したんだよ」

雪うさぎは、少し困った顔で笑いました。

「ボクはもういかなきゃ。また、記憶を消していくよ」

紅茶うさぎは、頭を横に振りました。

「私はもう大丈夫。アナタがいないことよりも、
 アナタを忘れてしまうことの方が、いやだもの」

雪うさぎは、少し困った顔で笑い、そっと紅茶うさぎの
頭をなでました。冷たい冷たい手。

そして、雪うさぎの身体の色がだんだん薄くなっていきました。

紅茶うさぎは、涙をぽろぽろこぼしながら言いました。

「雪が降ったら、また会える?」

雪うさぎは、少し困った顔で笑い、そのままふぅっと消えてしまいました。

*****

紅茶うさぎは、今日も二人分の紅茶を入れ、二人分のジャムサンドを作り、
テラスのティーテーブルに置いて、椅子に座ります。

果実を集めては、お鍋でコトコト煮て、瓶詰のジャムを作ります。

ときどき小高い丘に登って、お墓の横にちょこんと座り、町を眺めます。

そして、冬をまた待つのです。

「雪が降ったら、会いにくるから・・・」

タグ:紅茶 うさぎ
posted by かこ at 06:39 | Comment(0) | 恋うさぎ〜Patisserie Ravigote
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。