音と紅茶の時間

音楽と恋の話、想い出話、今の心模様に、紅茶を添えて。

恋うさぎ

薬うさぎは、お薬屋さん。

おとうさんうさぎと、おかあさんうさぎが、作ってくれた薬を
お店で売って、暮らしています。

おとうさんうさぎと、おかあさんうさぎは
薬うさぎが小さいとき、薬草を取りに行ったっきり
帰ってきませんでした。

でも、薬うさぎは、あんまり淋しくありませんでした。

おかあさんうさぎが書いてくれた物語を読んでいると
おかあさん、おとうさんと、お話している気持ちになれたから。

それに、仲良しの恋うさぎが、ずっと一緒にいてくれたから。

*****

恋うさぎは男の子。薬うさぎは女の子。

恋うさぎと、薬うさぎのおうちは、となりで、
小さい時から大の仲良しでした。

恋うさぎは、いつも、誰かに恋しては、
嬉しそうに、ぴょんぴょん飛び跳ねていました。

恋を知らない薬うさぎは、いつも嬉しそうに飛び跳ねる
恋うさぎをみては、とても嬉しい気持ちになっていました。

わたしもいつか、恋をして、あんな風にキラキラできるのかな?
おかあさんが、おとうさんに恋をしたみたいに。

*****

ある月のきれいな夜、恋うさぎは、月うさぎに恋をしました。

よく晴れた満月の夜、広場に、恋するうさぎたちが集まってきて
手を取り合って、恋のダンスを踊るのです。

コイビトのいないうさぎも、広場に来て、恋する相手を見つけます。

恋うさぎも、恋を知らない薬うさぎも、広場で恋のダンスを眺めます。

満月が、夜空の真ん中にきた時、月うさぎが空から降りてきて
恋うさぎを見つめ、手をとって踊り始めました。

それはそれは、素敵なダンス。

薬うさぎは、恋うさぎと月うさぎのダンスを
うっとりと眺めながら、胸にちくんと何かを感じました。

あれあれ?あれれ?
なんだか痛い。

*****

それから、恋うさぎは、毎日、薬うさぎに話します。

月うさぎのダンスが、どれだけ素敵だったか。
次の満月の晩が、どれだけ楽しみかと。

恋うさぎは、待ちきれず、ぴょんぴょん跳ね回ります。
とてもとても、嬉しそうに。

*****

次の満月の晩は、雨でした。

恋うさぎは、月うさぎに会えなくて、
とてもとてもしょんぼりしていました。

*****

次の満月の晩は、きれいに晴れた夜でした。

恋うさぎは、ぴょんぴょん跳ねながら、月うさぎを待ちます。
薬うさぎも、恋うさぎを見つめます。

空から降りてきた月うさぎは、恋うさぎを通り過ぎ、
お菓子うさぎの手をとって踊り始めます。
それは、甘くて、とても素敵なダンス。

胸が痛くなるほどの、美しい踊り。

*****

その日から、恋うさぎは、跳ねるのをやめてしまいました。
ため息ばかり、ついてます。

薬うさぎは、ぴょんぴょん跳ねない恋うさぎを見て
とても心配になりました。

だって、薬うさぎは、いつも嬉しそうに跳ねている
恋うさぎしか、知らなかったから。

*****

恋うさぎは、ごはんもあまり食べなくなり、
どんどん痩せていきました。

恋うさぎは、ある日、薬うさぎに言いました。

月うさぎのことを考えると、とてもとても、苦しいんだ。
「恋を忘れるクスリ」をボクにくれないかい?と。

それはダメだよ、と薬うさぎは言いました。

おかあさんは、ヒトの気持ちを動かす薬を使ってはいけないと
言っていたもの。

*****

そうしているうちに、次の満月になりました。

月うさぎと、お菓子うさぎが、手に手を取って踊るのを見て
恋うさぎと薬うさぎは、二人でため息をつきました。

*****

それから、恋うさぎは、ますます痩せて、
骨と皮ばかりになってしまったように見えました。

もう一度、恋うさぎは言いました。
「恋を忘れるクスリ」をボクにくれないかい?と。

薬うさぎは答えます。

恋を忘れてしまったら、恋うさぎは、恋うさぎでなくなってしまう。
それでもいい?

それでもいいよ。だって、ボクは
もう、飛び跳ねることもできない。

*****

クスリを飲んだ、恋うさぎ。

それから三日三晩眠りつづけ、薬うさぎの前で目を覚ましました。

もう、恋うさぎではない、タダのうさぎは
薬うさぎの作ったごはんを食べて、
すっかり元気になったように見えました。

*****

もう、恋うさぎではない、タダのうさぎは、
ぴょんぴょん飛び跳ねることがなくなりました。

タダのうさぎは、言いました。

苦しい気持ちはなくなったけど、跳ねる気持ちもなくなってしまった。
跳ねないボクは、うさぎなのかな?

薬うさぎは、嬉しそうに跳ね回る恋うさぎが大好きでしたから
胸がとても痛くなりました。

薬うさぎは、おかあさんの書いてくれた物語を調べます。
「恋する気持ちを知るクスリ」。

材料は、コイノ草、コイノ涙。

*****

コイノ草は、イバラの森の奥にあります。

薬うさぎは言いました。

わたしが、「恋する気持ちを知るクスリ」を作ってあげる。
だから、ここで、待っていて。

*****

イバラの森は険しくて、薬うさぎは傷だらけ。
コイノ草を見つけた薬うさぎは、ぽろぽろ嬉し涙を流します。

これでまた、あの大好きな恋うさぎが、飛び跳ねるのを見られるわ。

薬うさぎは、涙にぬれたコイノ草を手にしたまま
気を失って倒れてしまいました。

*****

お留守番のタダのうさぎ、一週間待っても
薬うさぎが帰って来ないので、とても淋しくなりました。

薬うさぎが、そばにいないのは、生まれてはじめてのことでした。

とても会いたくなりました。

胸の奥でトクンと何かが動きます。

タダのうさぎは、ぴょんと跳ねました。

今すぐ、薬うさぎに会いに行こう!

*****

イバラの森もなんのその。

タダのうさぎは、ぴょんぴょん跳ねながら
森の奥を目指します。

大きな声で、薬うさぎの名前を呼びながら。

*****

薬うさぎは、目を覚ましました。
大好きな、恋うさぎの声が聴こえる?と。

目を開けると、目の前には、恋うさぎ。

ああ、わたし、やっとコイノ草を見つけたの。
今すぐ、クスリを作ってあげる、と。

傷だらけの薬うさぎを見つめて、恋うさぎは優しく笑います。

ありがとう。でも、もうクスリはいらないんだ。

なぜ?

だって、ボクはもう、キミに恋をしているから。

*****

恋うさぎは、薬うさぎをそっと抱え、言いました。

一緒に、帰ろう。今すぐ、帰ろう。
ボクたちのおうちに。

*****

今夜は、とてもきれいな満月で。

恋を知らないうさぎたちは、恋のダンスをうっとりと眺めます。

月うさぎと、お菓子うさぎの甘いダンス。

薬うさぎと、恋うさぎも手を取り合って踊ります。

それは、それは、素敵なダンス。

恋を知った薬うさぎと、ぴょんぴょん跳ねる恋うさぎの
ずーっと続く、恋の踊り。

*****

2012/9/10 by かこ

恋うさぎ
イラスト by 勘太さん

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コメント

  • とても良いお話ですよね。
    かこさんの才能に脱帽です。

    挿絵もなかなか良いですね(*^^*)ジブンデイッテラ

  • 勘太さん。挿絵、いいですよ~♪
    勘太さんのおかげで、読みに来てくれる方もいらっしゃいます。
    褒めて下さってとても嬉しいです。
    ありがとうございます[Em137]

  • 素敵な恋のお話ですね。
    秋の満月が楽しみになりました。横に二匹のウサギも座って見上げているかもしれないなと。

  • ありがとうございます。

    pegasuswhiteさんも、たくさんお話を
    書かれているんですね。

    ゆっくり読ませていただきますね~。

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