音と紅茶の時間

音楽と恋の話、想い出話、今の心模様に、紅茶を添えて。

Patisserie Ravigote

お菓子うさぎの妹うさぎのお菓子屋さん、
パティスリー・ラビゴットのお菓子は、
一口食べると元気になれる、幸せの味。

町のみんなは、パティスリー・ラビゴットのお菓子が大好き。

でもね。一年に一度、一週間、お菓子屋さんが
オヤスミするときがあるんです。

町のみんなは、顔を見合わせて、楽しそうに笑います。
それは、なぜかって・・・?

*****

お菓子うさぎが、月うさぎと消えてしまってからも
毎日毎日、妹うさぎは、お菓子を焼きました。

月のレモンパイ、お花の香りのクッキー、
星くずみたいなアザランがのったガトーショコラ。

妹うさぎは、首をかしげます。

  レシピは材料も作り方も一緒なのに
  どうしてお兄ちゃんのお菓子と同じ味にならないのかしら?

作ったお菓子を食べてみては、ため息をつくのです。
 
  どこか何かが、足りないの。

他の街からも来ていた、たくさんのお客さんも
すっかり来なくなり、
仲良しの友達が来てくれるだけになってしまいました。

  お兄ちゃんと、約束したのに。
  一口食べたら幸せになるお菓子を必ず作るって。

誰もいないお店の中で、妹うさぎは、ぼんやり考え込んでいました。

*****

と、そのとき、竜巻みたいな勢いで、
旅うさぎが、ドアから飛び込んできました。

  やあ、こんにちは。とってもいい匂い。
  お菓子を一つ、くれるかい?

  どうぞどうぞ。
  他に食べてくれるヒトもいないもの。
  好きなだけとって食べてくださいな。

旅うさぎは、いろんなお菓子をつまんで
むしゃむしゃ食べはじめました。

  これは素敵なレモンパイ、甘酸っぱくてさっぱりと。
  花の香りのクッキーは、今朝摘みたての、味がする。
  星くずのガトーショコラ、ほろ苦くて甘さ控えめ。
  
  どれも優しい味がする。
  でもなんだか、どれもひと味足りないね。

それを聞いた妹うさぎ。
ぽろりぽろりと涙をこぼします。

  そうなの。どのお菓子も、なんだか何かが足りないの。
  お兄ちゃんと同じ、幸せ味に、ならないの。

ぽろりぽろりと涙の流れる妹うさぎのほっぺたに、
旅うさぎは、いたずらっぽくキスをしました。

妹うさぎは、大きな目をまんまるに見開いて
びっくりして泣き止みました。

旅うさぎは、叫びました。

  わかったぞ!足りないのは、ドキドキワクワク味だ!

  ドキドキワクワク味?

きょとんとする妹うさぎの前で、
旅うさぎは、背中のリュックサックから、
小さな袋を取り出しました。

  これは、旅でドキドキワクワクを集めた魔法の粉。
  これをちょっぴり、ひとつまみ。

旅うさぎは、妹うさぎのお菓子に、ぱらりと魔法の粉をかけました。

妹うさぎと、旅うさぎ。
二人で一緒にお菓子を食べ、目を見合わせてにっこり笑います。

  これだね。
  これね。

  ドキドキワクワクの優しい幸せ味!!

  お兄ちゃんのお菓子とはぜんぜん違うけど、
  これはとっても素敵な味!

*****

次の日から、お菓子屋さんは大繁盛。

ドキドキワクワクの粉をぱらりと入れて焼いたお菓子に、
町のみんなは大喜び。

  お菓子うさぎのお菓子とは違うけど
  とっても素敵な、幸せ味だ!

毎日毎日、飛び跳ねながら、お菓子を焼いて一週間。
とうとう旅うさぎが旅に出る日が来てしまいました。

お菓子うさぎの妹うさぎは、
また、ぽろりぽろりと涙をこぼします。

  アナタと一緒にいたいのに。
  アナタは旅する旅うさぎ。

  わたしは、お菓子屋さんの妹うさぎ。
  町のみんなを幸せにするお菓子を作るから
  アナタと一緒には行けないの。

ぽろりぽろりと涙の流れる妹うさぎのほっぺたに、
旅うさぎは、いたずらっぽくキスをしました。

  じゃあ、こうしよう、妹うさぎ。
  ボクは旅先から、キミに手紙を送るんだ。

  手紙にはドキドキワクワクの粉を集めていれるから、
  ボクを思ってお菓子を焼いて。

  でも、そのかわり。

  そのかわり?

  一年に一度、一週間、ボクが帰ったその時は。
  ボクだけのために、お菓子を焼いて、くれるかい?

妹うさぎは、にっこりと笑いました。

  おやすいご用。
  わたしは、ここで、この町で、とびきりのお菓子を焼いて
  アナタをいつも、待ってるわ。

*****

それから、妹うさぎのお菓子屋さんには
ひと月に一度、手紙が届くようになりました。

封筒の中には、魔法の粉が、一包み。

なんにも書いてないけれど、妹うさぎには
封筒の消印と、粉をちょっぴり入れて作ったお菓子の味で
旅うさぎが、どこで何をしているのか分かるのです。

****

さてさて、ただいま、妹うさぎのお菓子屋さん
パティスリー・ラビゴットには
「今週はお休みします」の看板がかかっています。

お店からは、お菓子の焼ける、ふんわりいい匂い。

町のみんなは、元気の出るお菓子が食べられないけれど
幸せそうに、目を見合わせて笑うんです。

  お菓子が少しの間、食べられないのなんて、我慢するさ。

  だって、オヤスミの後のお菓子やさんには
  いつも、とびきりおいしいお菓子が並ぶからね。

と。

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