かつやの踊り子
久しぶりに、かつやに行った。
ふみちゃんに呼ばれた気がして。
私は、以前、ふみちゃんにお願いしたのと同じ、
梅のカツ丼を注文して、熱いお茶をすすりながら、
ふみちゃんのことを考えていた。
*
ふみちゃんは、文子さん、と言った。
初めて聞いた時に、きれいな名前、と思った。
ふみちゃんは私より少し年上で、背筋がすっと伸びた、
背の高いお姉さんだった。
私とふみちゃんは、一緒の舞台芸術の学校の研究生で、
泣いたり、笑ったり、叫んだりしながら、小作品を作り、
身体中にあざをたくさん作りながら、ダンスの稽古をした。
浴衣を着て、何度も倒れては起き上がり踊る姿には
鬼気迫る勢いがあって、私は、彼女に見とれたものだ。
どうして、あんな風に、あの人は踊るのだろう、と。
芯が強くて、優しくて、ちょっと淋しげに笑う人だった。
ふみちゃんと話すとき、私は少し甘えっ子になった。
私は、ふみちゃんのことをもっと知りたくて、バイト先の
かつやに会いに行った。
エプロン姿のふみちゃんは、来てくれたの?ありがとう、
と言って、ふふふ、と笑った。
*
ふみちゃんは、実は身体が弱くて、その後、入退院を
繰り返し、若くして逝ってしまった。
ご両親からいただいた葉書には、戒名が記されていて、
文子さん、という名前と同じように、とてもきれいだな、
と思った。
文子は、短い人生でしたが、皆様に囲まれて幸せだったと
思います、と、書いてあった。
だから、ふみちゃんは、あんなに一生懸命に踊っていたんだ、
と思った。
*
ふみちゃんを思いながら食べたカツ丼は、半熟の卵が
とろとろで、あの時と同じ味がした。
涙がじわじわにじんできて、胸が詰まって、困ってしまった。
私は、ふみちゃんに、会いたかったんだと思う。
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