音と紅茶の時間

音楽と恋の話、想い出話、今の心模様に、紅茶を添えて。

かつやの踊り子

久しぶりに、かつやに行った。
ふみちゃんに呼ばれた気がして。

私は、以前、ふみちゃんにお願いしたのと同じ、
梅のカツ丼を注文して、熱いお茶をすすりながら、
ふみちゃんのことを考えていた。

ふみちゃんは、文子さん、と言った。
初めて聞いた時に、きれいな名前、と思った。
ふみちゃんは私より少し年上で、背筋がすっと伸びた、
背の高いお姉さんだった。

私とふみちゃんは、一緒の舞台芸術の学校の研究生で、
泣いたり、笑ったり、叫んだりしながら、小作品を作り、
身体中にあざをたくさん作りながら、ダンスの稽古をした。

浴衣を着て、何度も倒れては起き上がり踊る姿には
鬼気迫る勢いがあって、私は、彼女に見とれたものだ。
どうして、あんな風に、あの人は踊るのだろう、と。

芯が強くて、優しくて、ちょっと淋しげに笑う人だった。

ふみちゃんと話すとき、私は少し甘えっ子になった。
私は、ふみちゃんのことをもっと知りたくて、バイト先の
かつやに会いに行った。

エプロン姿のふみちゃんは、来てくれたの?ありがとう、
と言って、ふふふ、と笑った。

ふみちゃんは、実は身体が弱くて、その後、入退院を
繰り返し、若くして逝ってしまった。

ご両親からいただいた葉書には、戒名が記されていて、
文子さん、という名前と同じように、とてもきれいだな、
と思った。

文子は、短い人生でしたが、皆様に囲まれて幸せだったと
思います、と、書いてあった。

だから、ふみちゃんは、あんなに一生懸命に踊っていたんだ、
と思った。

ふみちゃんを思いながら食べたカツ丼は、半熟の卵が
とろとろで、あの時と同じ味がした。
涙がじわじわにじんできて、胸が詰まって、困ってしまった。

私は、ふみちゃんに、会いたかったんだと思う。

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