船うさぎ
貝うさぎは、浜辺で貝殻やきれいな石をひろっては、
首飾りやイヤリング、指輪にブローチ、
素敵なアクセサリーを作ります。
できあがった品物は、街の広場の小さなワゴンで、
女の子たちに売るのです。
プレゼントに包んでっていう男の子もいます。
貝うさぎは、そのお金で街の市場の野菜や果物を買います。
そして、お菓子うさぎの妹うさぎの
とびきり元気の出るお菓子屋さん、
『パティスリー・ラビゴット』に立ち寄って、
大好きな満月のクッキーを一袋、買って帰るのです。
浜辺に戻った貝うさぎは、ちょこんと座って
海の遠くに見える珊瑚の島を眺めながら、
黄色い満月のクッキーを食べながら思います。
「珊瑚の島に行ってみたいな。
珊瑚で作るブレスレットは、きっととても素敵。」
*****
ある日、貝うさぎが、浜辺でちょこんと座って
海を眺めていると、遠くから小さな船に乗って、
うさぎがやってくるのが見えました。
浜についたうさぎは言いました。
「こんにちは。ボクは船うさぎ。
キミがつけている貝の首飾りはとても可愛いね。」
貝うさぎは嬉しくなって、ぴょんと跳ねました。
「ありがとう。これはワタシが作ったの。
ワタシは貝うさぎ。海の話を聞かせてくれる?」
それから二人は、浜辺に並んでちょこんと座って、
満月のクッキーを二人で分けて食べました。
「おいしいね。」
「おいしいわ。」
二人で食べる『パティスリー・ラビゴット』のクッキーは
いつもとはぜんぜん違う、とびきりおいしい味がしました。
*****
それから二人は、毎日、浜辺でクッキーを分けて食べました。
そして、海を眺めながらおしゃべりするのです。
「あのね、ワタシ、珊瑚の島に行ってみたいの。
ワタシにも、船うさぎみたいな船が作れるかしら?」
「キミには無理だよ、貝うさぎ。
ボクが大きくて格好のいい船を作ってあげる。
そしたら、船の上で、一緒に暮らそうよ。」
貝うさぎは、目をまんまるにしました。
「ホントにホント?一緒に乗れる船を作ってくれるの?
それから・・・一緒に暮らせるの?」
「そうだよ、船の上で一緒に暮らそう、約束するよ。
だから、ここで待っていて。」
船うさぎは、一人乗りの船に乗って、どこかに行ってしまいました。
*****
船うさぎがいなくなって、最初の10日間は
貝うさぎはウキウキしながら待っていました。
「いつごろ船はできるのかな?まだかな、まだかな?」
それから次の10日間は、海を眺めながら
浜辺で貝殻や石をひろったりして過ごしました。
「大きい船って言っていたもの。そんなにすぐはできないわね。」
それから次の10日間、海を眺めながら
アクセサリーをたくさん作って、街の広場に売りに行きました。
満月のクッキーを浜辺で一人で食べながら思います。
「ひとりで食べても、おいしくない。
船なんかいらないし、珊瑚の島にも行けなくていい。
船うさぎと一緒にクッキーが食べたいな。」
貝うさぎは、ぽろりぽろりと涙をこぼし、
それはたくさんの真珠になりました。
次の10日間、貝うさぎは真珠で首飾りを作りました。
首飾りは、とても高く売れました。
貝うさぎは、浜辺で海を眺めながら思います。
「船うさぎは、船を作ってくれているのかしら?
ワタシのことなんて、すっかり忘れてしまって、
他のウサギと、クッキーを食べているのかもしれない」
貝うさぎの胸は、ちくりちくりと痛みました。
「いつまで待てばいいのかな。
船うさぎに会いたいな。船うさぎに会いたいな。」
貝うさぎはまた、ぽろりぽろりと真珠の涙をこぼします。
*****
3ヶ月経って、海の遠くの珊瑚の島を眺めながら
貝うさぎは考えました。
「ワタシに船が作れないかな。
大きい船は難しくても、一人乗りの小さな船なら、
ワタシでも作れるかもしれない。」
「船に乗って、海に出たら、珊瑚の島に行ったら、
ひょっとして、ひょっとしたら、
船うさぎに会えるかもしれない!」
貝うさぎは、少しワクワクしてきました。
*****
貝うさぎは街の図書館で、船の作り方の本を探しました。
図書館で本うさぎが言いました。
「こんにちは、貝うさぎ。ずいぶん熱心だね。
今日はアクセサリーの本じゃないのかい?」
貝うさぎが言いました。
「こんにちは、本うさぎ。今日は船の作り方の本を探しているの。
ワタシにも作れそうな、小さくて簡単なのはないかしら?」
「それなら、ちょうどいいのがある。
ボクも船を作りたいって思っていたとこさ。」
と、本うさぎは手に持っていた本を渡してくれました。
貝うさぎはびっくりしました。
「ありがとう!本うさぎも船を作るの?」
本うさぎはウインクして言いました。
「珊瑚の島に行って、珊瑚の研究をしたいんだ。」
貝うさぎは言いました。
「ワタシも、珊瑚の島に行って、珊瑚のアクセサリーを作りたいの。」
「それじゃあ、ちょうどいい。
一緒に船を作って、一緒に島に行こうよ。」
*****
それから二人は、木材屋さんで材料を買って、
道具やさんで道具を買って、毎日毎日、船を作りました。
貝うさぎは一日中、丁寧に。本うさぎは、図書館の仕事の合間に。
船を作ることに疲れたら、二人は浜辺に並んで座って
満月のクッキーを一緒に分けて食べました。
「おいしいね。」
「おいしいわ。」
「船うさぎと食べる味とは違うけれど、
一人で食べるよりは、ずっとおいしいな。」
と、貝うさぎは思います。
*****
それから3ヶ月経って、ようやく船が出来上がりました。
船にはきれいな色を塗って、貝殻と真珠で可愛い飾りも付けました。
貝うさぎと本うさぎは、船を二つ並べて、海に浮かべ、
オールをこいで、珊瑚の島に行きました。
貝うさぎと本うさぎは、珊瑚の島や、いつもの浜辺に行ったり来たり。
変わらず珊瑚や貝殻のアクセサリーも作り、図書館で本を読み。
貝うさぎは自分の船を見て思います。
「小さくて可愛いワタシの大切な船。
この船があれば、ワタシはオールを漕いで、自分で好きなところに行ける。
船うさぎと並んで、海に出ることもできるわ。」
「船うさぎに会いたいな。船うさぎに会いたいな。」
*****
そんなある日、船うさぎが豪華な客船に乗って浜辺にやってきました。
貝うさぎはとても嬉しくなって、ぴょんぴょんと駆け寄りました。
船うさぎは、貝うさぎの船を見て言いました。
「なんだい、このみすぼらしい船。
ボクの作った船は大きくて格好いいだろう?
キミのために作ったこの船に乗って、一緒に暮らすんだ。」
貝うさぎは急に悲しくなって言いました。
「この船はアナタを待っている間にワタシが作ったの。
小さくても気に入ってるの。
自分でオールを漕いで、珊瑚の島にも行けるのよ。
アナタと船を並べて海に出られるわ。」
船うさぎは怒って言いました。
「キミがオールを漕ぐ必要なんてないさ。
キミは何もしなくていいんだ。
珊瑚の島に先に行ったのか!一緒に行こうと約束したじゃないか。
どうして待っていなかったんだい?」
貝うさぎは言いました。
「ずっとアナタを待っていたんだよ。一緒に海に行きたかった。
いつまで待てばいいか分からなかったもの。
ワタシのことなんて忘れてるんじゃないかと思ったの。」
貝うさぎは、ぽろりぽろりと真珠の涙をこぼしました。
船うさぎはちょっと困って言いました。
「ずっと待たせて悪かった。
船ができたらキミが喜ぶと思ったんだけど。
その小さな船を捨てて、この船に乗りなよ。
キミは何もしなくていい。
どこにだってボクが連れて行ってあげるよ。」
貝うさぎは、首を横に振って言いました。
「ワタシは、自分でどこにでもいける、
ワタシの作った小さな船が気に入ってるの。
アナタからはみすぼらしく見えるかもしれないけれど
捨てることなんてとてもできないわ。」
*****
と、そこへ本うさぎが船を引いてやってきました。
船うさぎは、本うさぎと船を見て青ざめました。
「そういうことか。
キミの乗らない船なら、何の意味もない。」
船うさぎは、貝うさぎの言葉も聞かず、大きな客船を叩き壊し、
一人乗りの船に乗って、一人でどこかへ行ってしまいました。
*****
哀しかったのは、誰?
淋しかったのは、誰?
どうしたら、誰も泣かずにすんだのでしょう?
|
コメント
。・゚・(ノД`)・゚・。
゚・。(。/□\。)。・゚