過去の記憶5・将来への挫折
過去の記憶4より
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女子より、男子と話す方が、気楽。
そう思ったのも、この時期。
男同士、女同士なら、自分と違う価値観の相手を
自分の価値観に引き寄せようとしてしまうけれど
もともと違う存在ならば、
そのまま認めることができる。
女の子は、泣くし、怒るし、ひがむし、指し図する。
気を遣わなくてはいけなくて、面倒。
男の子の前でなら、素の自分でいられる。
そんなことを感じていた。
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中学生の頃の私の趣味は、
絵を描くこと、手芸することと、お菓子作り。
趣味とは言っても、本気だった。
画材屋、文房具屋、手芸屋に行っては
うっとり道具や生地を眺める。
お小遣いを貯めては、画材を買って
ひたすら絵を描いたり、
自分でデザインした小物を布や毛糸で作りあげた。
お菓子作りも、無心で、ひたすら卵を泡立てたり
バターを泡立てたり。
焼菓子がオーブンで焼けていく匂いが大好きだった。
いつも上出来のケーキを楽しみに
食べてくれる家族がいて、私は幸せだった。
それでも、部活がなく、疲れが溜まっている休日は
食事も摂らず、何もせず、ひたすら夕方まで
寝ている日もあった。
ひたすら眠れば、無になれるような気がした。
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ある日、アベくんという男子と隣の席になった。
成績を私と常に争う男の子。
給食のときに、びっくりした。
ミカンの皮をきれいに四つ割りにしてむいて
白い筋もきれいに取って食べる。
食べ終わると、ひっくりかえす。
そうすると、まるで食べていないような
きれいなミカンの皮が、残るのだ。
字も、きれいだった。
雑巾の縫い目も、細かくまっすぐ。
そして、絵も私よりずっと、上手だった。
丁寧に、美しく世界を造るアベくんに
こいつには敵わない、と思った。
将来、画家や、手芸家になりたいなんて
考えた私が、甘く馬鹿だった、と。
負ける勝負は、始めからしない。
私は、将来、どんな仕事に就けば
自分を生かし、稼いでいけるのか、と
いつも考えていた。
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