お菓子うさぎ
お菓子うさぎ兄妹のお菓子屋さん、
パティスリー・ラビゴットのお菓子は、
一口食べると元気になれる、幸せの味。
町のみんなは、パティスリー・ラビゴットのお菓子が大好き。
今日も、お菓子うさぎは、とびきりのお菓子を作ります。
妹うさぎは、お手伝い。
町のみんなが笑顔になれるようにと願いをこめて
一所懸命、オーブンで、お菓子を焼きます。
小麦粉・バターに卵にお砂糖、幸せの気持ちをふりかけて。
*****
お菓子うさぎの妹うさぎは、兄うさぎの作るお菓子が大好きで、
レシピを見ては、自分でもお菓子を焼くのです。
お兄ちゃんのお菓子は、とびきりの幸せ味。
材料も、作り方も同じなのに、
どうして同じ味にならないのかしら?
お菓子うさぎは優しく笑って答えます。
それはね、ボクの大事な妹うさぎ。
いつか、恋を知った、そのときに、答えがわかるかもしれないね。
*****
お菓子うさぎは、月が優しく光る夜、屋根裏部屋の小さな窓辺に
とびきりのお菓子を置いておくのです。
屋根裏部屋に、月の光がさしこんで。
朝になると、いつのまにかお菓子が消えているのです。
お兄ちゃん、どうして、いつもお菓子を
屋根裏部屋に置いておくの?
それはね、ボクの大事な妹うさぎ。
大切な人へのプレゼントなんだよ。
お菓子うさぎは優しく笑って答えます。
妹うさぎは、そんなとき、なんだかお菓子うさぎが
淋しそうだと思うのです。
お兄ちゃんは、淋しいの?
そうだね、ボクの大事な妹うさぎ。
淋しくて、とても幸せなんだ。
*****
ある晩、妹うさぎは、ふと目が覚めて、お店のキッチンに行きました。
大きな窓から、月の光がさしこんで。
キラキラと光るうさぎの影が、お菓子に光る粉を
ふりかけているのが見えました。
その影は、まるで踊っているみたい。
*****
満月の晩、妹うさぎは、お菓子うさぎが出かけるのを見て
そっと後をついていきました。
広場には、たくさんの恋するうさぎたち。
月うさぎとお菓子うさぎが、手に手をとって
ダンスをするのが見えました。
それは、甘くて、とても素敵なダンス。
胸が痛くなるほどの、美しい踊り。
*****
お菓子うさぎの妹うさぎは、友達の薬うさぎに聞きました。
お兄ちゃんのお菓子を食べた、町のみんなは幸せなのに
お兄ちゃんはなんだか淋しそう。
いつも笑顔になってもらうには、いったいどうしたらいいのかしら?
ふうむ。
お菓子うさぎは月うさぎに恋をしているから。
好きな気持ちは幸せで、会えない気持ちは淋しいの。
薬うさぎは、おかあさんが書いてくれた物語を調べます。
月うさぎが、地上に降りて、恋のダンスが踊れるのは
満月の晴れた夜だけで。
月夜の晩には光になって降りてくる。
でも、その影には、ふれることが、できないの。
妹うさぎは訊ねます。
それじゃあ、お兄ちゃんは、ずっと淋しいの?
ここに、こう、書いてあるわ。
月夜の晩に、月うさぎにキスをしたうさぎは
一緒に天に行くことができる。
でも、二度とその二人は、地上に降りてくることが、できないの。
*****
お菓子を一緒に焼きながら、妹うさぎは訊ねます。
お兄ちゃんは月うさぎと、いつも一緒にいたいと思わないの?
お菓子うさぎは優しく笑って答えます。
そうだね、ボクの大事な妹うさぎ。
でも、ボクがいなくなったら、
誰が町のみんなを幸せにするお菓子を焼くんだい?
みくびらないで、お兄ちゃん。
今は、まだできないけれど、いつかきっと
わたしが町のみんなを幸せにする、
とびきりのお菓子を焼いてみせるわ。
妹うさぎはそう言って、大きい目で、お菓子うさぎを見つめました。
ありがとう、ボクの大事な妹うさぎ。
お菓子うさぎは優しく笑いました。
*****
満月の晩、お菓子うさぎは、月うさぎに会いに出かけます。
妹うさぎは、そっと後をついていきました。
広場には、たくさんの恋するうさぎたち。
月うさぎとお菓子うさぎが、手に手をとって
ダンスをするのが見えました。
月夜のダンスが終わるころ、
お菓子うさぎは、月うさぎをそっと抱きしめて
涙を目にいっぱいに浮かべた月うさぎに
優しく優しくキスをしました。
月の光が広場に広がって。
天に二つの影が、手を取り合って昇っていくのが見えました。
*****
それきり、お菓子うさぎと、月うさぎの二人の姿を
見たヒトは、誰もいません。
でも、満月のきれいな夜、
広場から月をそっと見上げると、二人がダンスしている影が
見えるんですって。
お菓子うさぎの妹うさぎのお菓子の話は、また、今度。
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