音と紅茶の時間TOP恋うさぎ〜Patisserie Ravigote
2013年12月11日

サンタクロースからの最後の手紙

クリスマスツリーを飾りながら、8才のちびうさぎが聞きました。

「ママ、サンタさんって、ほんとはパパとママなの?」

ちびうさママが、少し困った顔でたずねます。

「どうしてそんな風に思うの?」

「ともだちがいってたもん」

「ママじゃないけど・・・ふーむ」

ちびうさママは、ちょっと考え込んで言いました。

「ひょっとしたら、もう、ちびうさのところには、
 サンタさんが来てくれないかもしれないわ。
 だって、サンタさんは、サンタさんを信じてる子の
 家にしか来ないんだもの」

ちびうさぎは、はっとした顔になりました。

「ボクのところには、もうサンタさんがきてくれないかもしれない」

ちびうさママは続けます。

「ちびうさは、もうずいぶん大きくなっちゃったものねぇ」

ちびうさぎは、なんだかとてもしょんぼりした気持ちになりました。

*****

クリスマスイブの夜。

パジャマを着たちびうさぎは、うさママと一緒にクリスマスツリーの下に、
パティスリー・ラビゴットのクッキーをお皿に載せて置きました。

一口食べるだけで飛び跳ねるほど元気になれる、ラビゴットのお菓子。
靴下のかたちのクッキーです。

「サンタさん、たべてげんきになってくれるかなぁ・・・。
 でもサンタさん、もうきてくれないかも」

歯を磨きながら、ちびうさぎは思います。

ちびうさママは言いました。

「サンタさん、来てくれるいいわね。おやすみなさい」

ベッドに入っても、ちびうさぎは、なんだかよく眠れません。

「サンタさんに、わるいことしちゃったかも・・・。
 ボクがうたがったりしたから、がっかりしてるかも」

だんだん遠くなる意識の中で、ちびうさぎは鈴の音を聞いた気がしました。

*****

朝、目覚めたちびうさぎは、ぴょんぴょん走ってツリーのところに行きました。

お皿の上からクッキーが無くなっていて、プレゼントが、
一つ、二つ、三つ!

パパと、ママと、サンタさんからだ!

サンタクロースのプレゼントには、キラキラ光るカードがついていました。


『 親愛なる ちびうさぎくんへ

  ちびうさぎくん、これが私が君に贈る最後のプレゼントだよ。

  もちろん私は、君がとてもいい子だと知っているよ。

  でも、世界中では、毎年たくさんの赤ちゃんが生まれ、

  私のプレゼントを待っているちびっこが大勢いて、大いそがしなんだ。

  君はとても大きくなったから、今度は君より小さいお友達に

  順番を譲ってあげてくれるかい?

  これからも、いつも君の元気と幸せを願っているよ。


                       サンタクロース より


  追伸 クッキーとてもおいしかったよ。ごちそうさま、ありがとう。 』


ちびうさぎは、ポロリと涙をこぼして、ごしごし目を手でこすりました。

サンタさんからの最後のプレゼントが何だったかは、ないしょ、ナイショ。

posted by かこ at 16:21 | Comment(0) | 恋うさぎ〜Patisserie Ravigote
2013年08月03日

雪うさぎ

「・・・が・・・ったら・・・から・・・」

小高い丘のふもとにある小さな家のベッドの上で、
紅茶うさぎは、今朝も泣きながら目を覚ましました。

「何の夢を見ていていたんだろう?いつも見る夢」

真っ赤な目で、ふーっとため息をつきながら、
水道の蛇口をひねって、ケトルに勢いよく水を注ぎます。

ケトルを火にかけている間に、ジャムサンドを作ります。
今日はイチゴジャムとマーマレード。
お皿は二つ。

ケトルから、しゅんしゅんと音を立てて、湯気が吹き出します。
温めたガラスのティーポットを二つ、茶葉をティースプーンですくって入れます。

ティーポットに勢いよくお湯を注ぎます。
一つのティーポットには、半分のお湯。

砂時計をひっくり返し、くるくると茶葉が踊るのをぼんやりと眺めます。

白いティーポットとティーカップ。氷が上まで入ったグラス。
それぞれに、紅茶を注ぎます。

トレイに白いティーポット、ティーカップ、アイスティー、
それから二つのお皿にのったジャムサンド。

トレイをテラスに運んで、ティーテーブルに載せました。
椅子にすわった紅茶うさぎは思います。

「なぜ、いつも二人分の紅茶を用意してしまうのかしら?」

温かい紅茶を飲みながら、冷たいアイスティーの氷が
溶けていくのを眺めます。

「だって、そうするのが、当たり前のような気がするんだもの」

二つのお皿にのったジャムサンドを食べた紅茶うさぎは、
最後に氷の溶けたアイスティーも飲み干しました。

「おなかいっぱい。さて、今日はさくらんぼを摘みに行こう」

*****

さくらんぼの木に登って、腰につけた布の袋に、
どんどんさくらんぼを摘んで入れていきます。

「さくらんぼのジャムは、すぐなくなっちゃうから、
 たくさん作らなきゃね。だって、あのヒトが好きだから」

「あのヒト?あのヒトって誰だっけ?」

摘んださくらんぼをきれいに洗って種をはずし、
鍋にお砂糖とレモン汁を入れてコトコトゆっくり煮ていきます。

灰汁をすくいながら、ゆっくりゆっくり。

「甘酸っぱいにおいも大好きなんだよね・・・」

できたさくらんぼのジャムを半ダースの瓶に詰めました。

10時のお茶はオーブンで焼いたクッキーにさくらんぼジャムを
挟んで作ったジャムサンドクッキー。

トレイの上には温かい紅茶の入ったティーポットにティーカップ。
アイスティー。クッキーののったお皿は二つ。

トレイでテラスに運んで並べます。

「だって、そうするのが、いつものことなんだもの」

紅茶うさぎは、温かい紅茶を飲んで、アイスティーを飲んで、
二皿分のクッキーを食べました。

****

イチゴジャム、さくらんぼジャム、マーマレードジャム、
マスカットジャム、キイチゴジャム、ブルーベリージャム、
たくさんの瓶が、棚に並ぶころ、冬が来ました。

「・・・が降ったら、・・・くるから・・・」

紅茶うさぎは、また泣きながら目を覚まします。

二人分の紅茶を入れながら、またぼんやり考えます。

「今日は丘の方に行ってみよう。
 だって私、丘に登って町を眺めるのが大好きだったような
 気がするんだもの」

二人分の紅茶を飲み干した紅茶うさぎは、小高い丘に向かいます。

「いつもこの道を誰かと歩いていた気がする・・・」

突然、紅茶うさぎの頭の中で
「イッテハイケナイ、イッテハイケナイ」
という小さな声が聴こえました。

紅茶うさぎは、ハッとして、走って丘を降りました。

*****

「雪が降ったら、会いにくるから・・・」

紅茶うさぎは、ぱちんと目を覚ましました。
とても寒い日。
吐く息が白い中、紅茶うさぎはケトルでお湯を沸かしました。

トレイに温かい紅茶とアイスティー、二つのお皿には
さくらんぼのジャムサンド。

雪がちらちらとテラスに舞い降ります。

椅子に座って、毛糸で編んだひざかけをかけます。
ふと見ると、もう一つの椅子に、白いウサギが座っています。

「ああ、雪うさぎ、私、アナタを待っていたのね。
 どうして忘れていたのかしら?」

雪うさぎは、ジャムサンドをつまみながらアイスティーを
飲み、少し困った顔で笑いました。

「紅茶うさぎ、キミの入れる紅茶とジャムサンドは、
 どうしていつもこんなにおいしいんだろうね?」

*****

それから毎日、二人はテラスで一緒に紅茶を飲んで、
ジャムサンドや、ジャムクッキーを食べました。

テラスに運ぶトレイの上には、白いティーポット、ティーカップ、
アイスティーに、二つのお皿。

アイスティーを飲み干すと、雪うさぎはまた明日、と
小高い丘の方に帰っていくのです。

*****

ある少し暖かな日、紅茶うさぎは、胸がドキンとして目を覚ましました。

二人分の紅茶と、ジャムサンドののったお皿を二つ、
トレイにのせて、テラスに運ぶと、雪うさぎが椅子に座っていました。

アイスティーとさくらんぼのジャムサンドを食べ終わった
雪うさぎが言いました。

「紅茶うさぎ、たくさんのおいしい紅茶とジャムサンドをありがとう。
 ボクはもう、そろそろいかなきゃいけない」

「雪うさぎ、アナタにもう、会えないの?」

紅茶うさぎがぽろぽろ涙をこぼすと、雪うさぎは少し困った顔で笑い、
そっと触れるか触れないかくらいに頭をなでました。
冷たい冷たい手。

丘に続く道を歩く雪うさぎを紅茶うさぎは追いかけます。

紅茶うさぎの頭の中で
「イッテハイケナイ、イッテハイケナイ」
という小さな声が聴こえました。

「それでも、行かなきゃ。雪うさぎが消えてしまう!」

*****

小高い丘の上には、小さなお墓がありました。

 <雪うさぎ ここに眠る>

その前に、雪うさぎは立って、紅茶うさぎを待っていました。

「ああ、雪うさぎ、私、何もかも思い出した」

秋の終わりの日、雪うさぎは、こほこほと咳を出し、
お薬も効かず、そのまま雪のように冷たくなってしまったんだ。

毎日、お墓の前で溶けてしまうほど泣いていた紅茶うさぎの前に、
雪と一緒に会いに来た雪うさぎは、ひと冬、一緒に紅茶を飲み、
ジャムサンドを食べ、そして雪と一緒に消えてしまったんだった。

「どうして私、こんな大切なこと忘れていたのかしら?」

「あんまりキミが泣くから、雪と一緒に、思い出も消えるように
 したんだよ」

雪うさぎは、少し困った顔で笑いました。

「ボクはもういかなきゃ。また、記憶を消していくよ」

紅茶うさぎは、頭を横に振りました。

「私はもう大丈夫。アナタがいないことよりも、
 アナタを忘れてしまうことの方が、いやだもの」

雪うさぎは、少し困った顔で笑い、そっと紅茶うさぎの
頭をなでました。冷たい冷たい手。

そして、雪うさぎの身体の色がだんだん薄くなっていきました。

紅茶うさぎは、涙をぽろぽろこぼしながら言いました。

「雪が降ったら、また会える?」

雪うさぎは、少し困った顔で笑い、そのままふぅっと消えてしまいました。

*****

紅茶うさぎは、今日も二人分の紅茶を入れ、二人分のジャムサンドを作り、
テラスのティーテーブルに置いて、椅子に座ります。

果実を集めては、お鍋でコトコト煮て、瓶詰のジャムを作ります。

ときどき小高い丘に登って、お墓の横にちょこんと座り、町を眺めます。

そして、冬をまた待つのです。

「雪が降ったら、会いにくるから・・・」

タグ:紅茶 うさぎ
posted by かこ at 06:39 | Comment(0) | 恋うさぎ〜Patisserie Ravigote
2013年02月24日

船うさぎ

貝うさぎは、浜辺で貝殻やきれいな石をひろっては、
首飾りやイヤリング、指輪にブローチ、
素敵なアクセサリーを作ります。

できあがった品物は、街の広場の小さなワゴンで、
女の子たちに売るのです。
プレゼントに包んでっていう男の子もいます。

貝うさぎは、そのお金で街の市場の野菜や果物を買います。

そして、お菓子うさぎの妹うさぎの
とびきり元気の出るお菓子屋さん、
『パティスリー・ラビゴット』に立ち寄って、
大好きな満月のクッキーを一袋、買って帰るのです。

浜辺に戻った貝うさぎは、ちょこんと座って
海の遠くに見える珊瑚の島を眺めながら、
黄色い満月のクッキーを食べながら思います。

「珊瑚の島に行ってみたいな。
 珊瑚で作るブレスレットは、きっととても素敵。」

*****

ある日、貝うさぎが、浜辺でちょこんと座って
海を眺めていると、遠くから小さな船に乗って、
うさぎがやってくるのが見えました。

浜についたうさぎは言いました。

「こんにちは。ボクは船うさぎ。
 キミがつけている貝の首飾りはとても可愛いね。」

貝うさぎは嬉しくなって、ぴょんと跳ねました。

「ありがとう。これはワタシが作ったの。
 ワタシは貝うさぎ。海の話を聞かせてくれる?」

それから二人は、浜辺に並んでちょこんと座って、
満月のクッキーを二人で分けて食べました。

「おいしいね。」
「おいしいわ。」

二人で食べる『パティスリー・ラビゴット』のクッキーは
いつもとはぜんぜん違う、とびきりおいしい味がしました。

*****

それから二人は、毎日、浜辺でクッキーを分けて食べました。
そして、海を眺めながらおしゃべりするのです。

「あのね、ワタシ、珊瑚の島に行ってみたいの。
 ワタシにも、船うさぎみたいな船が作れるかしら?」

「キミには無理だよ、貝うさぎ。
 ボクが大きくて格好のいい船を作ってあげる。
 そしたら、船の上で、一緒に暮らそうよ。」

貝うさぎは、目をまんまるにしました。

「ホントにホント?一緒に乗れる船を作ってくれるの?
 それから・・・一緒に暮らせるの?」

「そうだよ、船の上で一緒に暮らそう、約束するよ。
 だから、ここで待っていて。」

船うさぎは、一人乗りの船に乗って、どこかに行ってしまいました。

*****

船うさぎがいなくなって、最初の10日間は
貝うさぎはウキウキしながら待っていました。

「いつごろ船はできるのかな?まだかな、まだかな?」

それから次の10日間は、海を眺めながら
浜辺で貝殻や石をひろったりして過ごしました。

「大きい船って言っていたもの。そんなにすぐはできないわね。」

それから次の10日間、海を眺めながら
アクセサリーをたくさん作って、街の広場に売りに行きました。

満月のクッキーを浜辺で一人で食べながら思います。

「ひとりで食べても、おいしくない。
 船なんかいらないし、珊瑚の島にも行けなくていい。
 船うさぎと一緒にクッキーが食べたいな。」

貝うさぎは、ぽろりぽろりと涙をこぼし、
それはたくさんの真珠になりました。

次の10日間、貝うさぎは真珠で首飾りを作りました。
首飾りは、とても高く売れました。

貝うさぎは、浜辺で海を眺めながら思います。

「船うさぎは、船を作ってくれているのかしら?
 ワタシのことなんて、すっかり忘れてしまって、
 他のウサギと、クッキーを食べているのかもしれない」

貝うさぎの胸は、ちくりちくりと痛みました。

「いつまで待てばいいのかな。
 船うさぎに会いたいな。船うさぎに会いたいな。」

貝うさぎはまた、ぽろりぽろりと真珠の涙をこぼします。

*****

3ヶ月経って、海の遠くの珊瑚の島を眺めながら
貝うさぎは考えました。

「ワタシに船が作れないかな。
 大きい船は難しくても、一人乗りの小さな船なら、
 ワタシでも作れるかもしれない。」

「船に乗って、海に出たら、珊瑚の島に行ったら、
 ひょっとして、ひょっとしたら、
 船うさぎに会えるかもしれない!」

貝うさぎは、少しワクワクしてきました。

*****

貝うさぎは街の図書館で、船の作り方の本を探しました。

図書館で本うさぎが言いました。

「こんにちは、貝うさぎ。ずいぶん熱心だね。
 今日はアクセサリーの本じゃないのかい?」

貝うさぎが言いました。

「こんにちは、本うさぎ。今日は船の作り方の本を探しているの。
 ワタシにも作れそうな、小さくて簡単なのはないかしら?」

「それなら、ちょうどいいのがある。
 ボクも船を作りたいって思っていたとこさ。」

と、本うさぎは手に持っていた本を渡してくれました。

貝うさぎはびっくりしました。

「ありがとう!本うさぎも船を作るの?」

本うさぎはウインクして言いました。

「珊瑚の島に行って、珊瑚の研究をしたいんだ。」

貝うさぎは言いました。

「ワタシも、珊瑚の島に行って、珊瑚のアクセサリーを作りたいの。」

「それじゃあ、ちょうどいい。
 一緒に船を作って、一緒に島に行こうよ。」

*****

それから二人は、木材屋さんで材料を買って、
道具やさんで道具を買って、毎日毎日、船を作りました。

貝うさぎは一日中、丁寧に。本うさぎは、図書館の仕事の合間に。

船を作ることに疲れたら、二人は浜辺に並んで座って
満月のクッキーを一緒に分けて食べました。

「おいしいね。」
「おいしいわ。」

「船うさぎと食べる味とは違うけれど、
 一人で食べるよりは、ずっとおいしいな。」

と、貝うさぎは思います。

*****

それから3ヶ月経って、ようやく船が出来上がりました。

船にはきれいな色を塗って、貝殻と真珠で可愛い飾りも付けました。

貝うさぎと本うさぎは、船を二つ並べて、海に浮かべ、
オールをこいで、珊瑚の島に行きました。

貝うさぎと本うさぎは、珊瑚の島や、いつもの浜辺に行ったり来たり。
変わらず珊瑚や貝殻のアクセサリーも作り、図書館で本を読み。

貝うさぎは自分の船を見て思います。

「小さくて可愛いワタシの大切な船。
 この船があれば、ワタシはオールを漕いで、自分で好きなところに行ける。
 船うさぎと並んで、海に出ることもできるわ。」

「船うさぎに会いたいな。船うさぎに会いたいな。」

*****

そんなある日、船うさぎが豪華な客船に乗って浜辺にやってきました。

貝うさぎはとても嬉しくなって、ぴょんぴょんと駆け寄りました。

船うさぎは、貝うさぎの船を見て言いました。

「なんだい、このみすぼらしい船。
 ボクの作った船は大きくて格好いいだろう?
 キミのために作ったこの船に乗って、一緒に暮らすんだ。」

貝うさぎは急に悲しくなって言いました。

「この船はアナタを待っている間にワタシが作ったの。
 小さくても気に入ってるの。
 自分でオールを漕いで、珊瑚の島にも行けるのよ。
 アナタと船を並べて海に出られるわ。」

船うさぎは怒って言いました。

「キミがオールを漕ぐ必要なんてないさ。
 キミは何もしなくていいんだ。
 珊瑚の島に先に行ったのか!一緒に行こうと約束したじゃないか。
 どうして待っていなかったんだい?」

貝うさぎは言いました。

「ずっとアナタを待っていたんだよ。一緒に海に行きたかった。
 いつまで待てばいいか分からなかったもの。
 ワタシのことなんて忘れてるんじゃないかと思ったの。」

貝うさぎは、ぽろりぽろりと真珠の涙をこぼしました。

船うさぎはちょっと困って言いました。

「ずっと待たせて悪かった。
 船ができたらキミが喜ぶと思ったんだけど。
 その小さな船を捨てて、この船に乗りなよ。
 キミは何もしなくていい。
 どこにだってボクが連れて行ってあげるよ。」

貝うさぎは、首を横に振って言いました。

「ワタシは、自分でどこにでもいける、
 ワタシの作った小さな船が気に入ってるの。
 アナタからはみすぼらしく見えるかもしれないけれど
 捨てることなんてとてもできないわ。」

*****

と、そこへ本うさぎが船を引いてやってきました。

船うさぎは、本うさぎと船を見て青ざめました。

「そういうことか。
 キミの乗らない船なら、何の意味もない。」

船うさぎは、貝うさぎの言葉も聞かず、大きな客船を叩き壊し、
一人乗りの船に乗って、一人でどこかへ行ってしまいました。

*****

哀しかったのは、誰?
淋しかったのは、誰?

どうしたら、誰も泣かずにすんだのでしょう?

posted by かこ at 05:41 | Comment(2) | 恋うさぎ〜Patisserie Ravigote
2012年09月15日

お菓子うさぎ

お菓子うさぎ兄妹のお菓子屋さん、
パティスリー・ラビゴットのお菓子は、
一口食べると元気になれる、幸せの味。

町のみんなは、パティスリー・ラビゴットのお菓子が大好き。

今日も、お菓子うさぎは、とびきりのお菓子を作ります。
妹うさぎは、お手伝い。

町のみんなが笑顔になれるようにと願いをこめて
一所懸命、オーブンで、お菓子を焼きます。

小麦粉・バターに卵にお砂糖、幸せの気持ちをふりかけて。

*****

お菓子うさぎの妹うさぎは、兄うさぎの作るお菓子が大好きで、
レシピを見ては、自分でもお菓子を焼くのです。

  お兄ちゃんのお菓子は、とびきりの幸せ味。
  材料も、作り方も同じなのに、
  どうして同じ味にならないのかしら?

お菓子うさぎは優しく笑って答えます。

  それはね、ボクの大事な妹うさぎ。
  いつか、恋を知った、そのときに、答えがわかるかもしれないね。

*****

お菓子うさぎは、月が優しく光る夜、屋根裏部屋の小さな窓辺に
とびきりのお菓子を置いておくのです。

屋根裏部屋に、月の光がさしこんで。

朝になると、いつのまにかお菓子が消えているのです。

  お兄ちゃん、どうして、いつもお菓子を
  屋根裏部屋に置いておくの?

  それはね、ボクの大事な妹うさぎ。
  大切な人へのプレゼントなんだよ。

お菓子うさぎは優しく笑って答えます。

妹うさぎは、そんなとき、なんだかお菓子うさぎが
淋しそうだと思うのです。

  お兄ちゃんは、淋しいの?

  そうだね、ボクの大事な妹うさぎ。
  淋しくて、とても幸せなんだ。

*****

ある晩、妹うさぎは、ふと目が覚めて、お店のキッチンに行きました。

大きな窓から、月の光がさしこんで。

キラキラと光るうさぎの影が、お菓子に光る粉を
ふりかけているのが見えました。

その影は、まるで踊っているみたい。

*****

満月の晩、妹うさぎは、お菓子うさぎが出かけるのを見て
そっと後をついていきました。

広場には、たくさんの恋するうさぎたち。

月うさぎとお菓子うさぎが、手に手をとって
ダンスをするのが見えました。

それは、甘くて、とても素敵なダンス。
胸が痛くなるほどの、美しい踊り。

*****

お菓子うさぎの妹うさぎは、友達の薬うさぎに聞きました。

  お兄ちゃんのお菓子を食べた、町のみんなは幸せなのに
  お兄ちゃんはなんだか淋しそう。
  いつも笑顔になってもらうには、いったいどうしたらいいのかしら?

  ふうむ。
  お菓子うさぎは月うさぎに恋をしているから。
  好きな気持ちは幸せで、会えない気持ちは淋しいの。

薬うさぎは、おかあさんが書いてくれた物語を調べます。

  月うさぎが、地上に降りて、恋のダンスが踊れるのは
  満月の晴れた夜だけで。

  月夜の晩には光になって降りてくる。
  でも、その影には、ふれることが、できないの。

妹うさぎは訊ねます。

  それじゃあ、お兄ちゃんは、ずっと淋しいの?

  ここに、こう、書いてあるわ。
  月夜の晩に、月うさぎにキスをしたうさぎは
  一緒に天に行くことができる。
 
  でも、二度とその二人は、地上に降りてくることが、できないの。

*****

お菓子を一緒に焼きながら、妹うさぎは訊ねます。

  お兄ちゃんは月うさぎと、いつも一緒にいたいと思わないの?

お菓子うさぎは優しく笑って答えます。

  そうだね、ボクの大事な妹うさぎ。
  でも、ボクがいなくなったら、
  誰が町のみんなを幸せにするお菓子を焼くんだい?

  みくびらないで、お兄ちゃん。
  今は、まだできないけれど、いつかきっと
  わたしが町のみんなを幸せにする、
  とびきりのお菓子を焼いてみせるわ。

妹うさぎはそう言って、大きい目で、お菓子うさぎを見つめました。

  ありがとう、ボクの大事な妹うさぎ。

お菓子うさぎは優しく笑いました。  

*****

満月の晩、お菓子うさぎは、月うさぎに会いに出かけます。

妹うさぎは、そっと後をついていきました。

広場には、たくさんの恋するうさぎたち。

月うさぎとお菓子うさぎが、手に手をとって
ダンスをするのが見えました。

月夜のダンスが終わるころ、
お菓子うさぎは、月うさぎをそっと抱きしめて
涙を目にいっぱいに浮かべた月うさぎに
優しく優しくキスをしました。

月の光が広場に広がって。
天に二つの影が、手を取り合って昇っていくのが見えました。

*****

それきり、お菓子うさぎと、月うさぎの二人の姿を
見たヒトは、誰もいません。

でも、満月のきれいな夜、
広場から月をそっと見上げると、二人がダンスしている影が
見えるんですって。

お菓子うさぎの妹うさぎのお菓子の話は、また、今度。

posted by かこ at 20:29 | Comment(0) | 恋うさぎ〜Patisserie Ravigote

Patisserie Ravigote

お菓子うさぎの妹うさぎのお菓子屋さん、
パティスリー・ラビゴットのお菓子は、
一口食べると元気になれる、幸せの味。

町のみんなは、パティスリー・ラビゴットのお菓子が大好き。

でもね。一年に一度、一週間、お菓子屋さんが
オヤスミするときがあるんです。

町のみんなは、顔を見合わせて、楽しそうに笑います。
それは、なぜかって・・・?

*****

お菓子うさぎが、月うさぎと消えてしまってからも
毎日毎日、妹うさぎは、お菓子を焼きました。

月のレモンパイ、お花の香りのクッキー、
星くずみたいなアザランがのったガトーショコラ。

妹うさぎは、首をかしげます。

  レシピは材料も作り方も一緒なのに
  どうしてお兄ちゃんのお菓子と同じ味にならないのかしら?

作ったお菓子を食べてみては、ため息をつくのです。
 
  どこか何かが、足りないの。

他の街からも来ていた、たくさんのお客さんも
すっかり来なくなり、
仲良しの友達が来てくれるだけになってしまいました。

  お兄ちゃんと、約束したのに。
  一口食べたら幸せになるお菓子を必ず作るって。

誰もいないお店の中で、妹うさぎは、ぼんやり考え込んでいました。

*****

と、そのとき、竜巻みたいな勢いで、
旅うさぎが、ドアから飛び込んできました。

  やあ、こんにちは。とってもいい匂い。
  お菓子を一つ、くれるかい?

  どうぞどうぞ。
  他に食べてくれるヒトもいないもの。
  好きなだけとって食べてくださいな。

旅うさぎは、いろんなお菓子をつまんで
むしゃむしゃ食べはじめました。

  これは素敵なレモンパイ、甘酸っぱくてさっぱりと。
  花の香りのクッキーは、今朝摘みたての、味がする。
  星くずのガトーショコラ、ほろ苦くて甘さ控えめ。
  
  どれも優しい味がする。
  でもなんだか、どれもひと味足りないね。

それを聞いた妹うさぎ。
ぽろりぽろりと涙をこぼします。

  そうなの。どのお菓子も、なんだか何かが足りないの。
  お兄ちゃんと同じ、幸せ味に、ならないの。

ぽろりぽろりと涙の流れる妹うさぎのほっぺたに、
旅うさぎは、いたずらっぽくキスをしました。

妹うさぎは、大きな目をまんまるに見開いて
びっくりして泣き止みました。

旅うさぎは、叫びました。

  わかったぞ!足りないのは、ドキドキワクワク味だ!

  ドキドキワクワク味?

きょとんとする妹うさぎの前で、
旅うさぎは、背中のリュックサックから、
小さな袋を取り出しました。

  これは、旅でドキドキワクワクを集めた魔法の粉。
  これをちょっぴり、ひとつまみ。

旅うさぎは、妹うさぎのお菓子に、ぱらりと魔法の粉をかけました。

妹うさぎと、旅うさぎ。
二人で一緒にお菓子を食べ、目を見合わせてにっこり笑います。

  これだね。
  これね。

  ドキドキワクワクの優しい幸せ味!!

  お兄ちゃんのお菓子とはぜんぜん違うけど、
  これはとっても素敵な味!

*****

次の日から、お菓子屋さんは大繁盛。

ドキドキワクワクの粉をぱらりと入れて焼いたお菓子に、
町のみんなは大喜び。

  お菓子うさぎのお菓子とは違うけど
  とっても素敵な、幸せ味だ!

毎日毎日、飛び跳ねながら、お菓子を焼いて一週間。
とうとう旅うさぎが旅に出る日が来てしまいました。

お菓子うさぎの妹うさぎは、
また、ぽろりぽろりと涙をこぼします。

  アナタと一緒にいたいのに。
  アナタは旅する旅うさぎ。

  わたしは、お菓子屋さんの妹うさぎ。
  町のみんなを幸せにするお菓子を作るから
  アナタと一緒には行けないの。

ぽろりぽろりと涙の流れる妹うさぎのほっぺたに、
旅うさぎは、いたずらっぽくキスをしました。

  じゃあ、こうしよう、妹うさぎ。
  ボクは旅先から、キミに手紙を送るんだ。

  手紙にはドキドキワクワクの粉を集めていれるから、
  ボクを思ってお菓子を焼いて。

  でも、そのかわり。

  そのかわり?

  一年に一度、一週間、ボクが帰ったその時は。
  ボクだけのために、お菓子を焼いて、くれるかい?

妹うさぎは、にっこりと笑いました。

  おやすいご用。
  わたしは、ここで、この町で、とびきりのお菓子を焼いて
  アナタをいつも、待ってるわ。

*****

それから、妹うさぎのお菓子屋さんには
ひと月に一度、手紙が届くようになりました。

封筒の中には、魔法の粉が、一包み。

なんにも書いてないけれど、妹うさぎには
封筒の消印と、粉をちょっぴり入れて作ったお菓子の味で
旅うさぎが、どこで何をしているのか分かるのです。

****

さてさて、ただいま、妹うさぎのお菓子屋さん
パティスリー・ラビゴットには
「今週はお休みします」の看板がかかっています。

お店からは、お菓子の焼ける、ふんわりいい匂い。

町のみんなは、元気の出るお菓子が食べられないけれど
幸せそうに、目を見合わせて笑うんです。

  お菓子が少しの間、食べられないのなんて、我慢するさ。

  だって、オヤスミの後のお菓子やさんには
  いつも、とびきりおいしいお菓子が並ぶからね。

と。

posted by かこ at 15:41 | Comment(0) | 恋うさぎ〜Patisserie Ravigote