母のクリームワッフル
小学校が早く終わった日や
お休みの日には、
ときどき、母がワッフルを焼いてくれた。
いまどきのベルギーワッフルではなく、
小判型の柔らかい厚い皮を二つに折って、
カスタードクリームを挟んだもの。
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まず、最初にカスタードを炊く。
全卵+卵黄の、ちょっと安っぽい味の
カスタードクリーム。
最初、ゆっくり混ぜるのは、私の仕事。
とろとろになってきたら、
母が交替して、焦がさないように
高速でなべ底を引きはがすように混ぜる。
出来立ては、熱々で、味見はちょっと
要注意だった。
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次は、クリームを挟む皮。
卵白に薄力粉、砂糖、ベーキングパウダーを
加えてさっくり混ぜ、白い生地を作る。
ガス火の上に黒い鉄型を置いて
薄く油を敷き、八分目、
焼いて溢れないように、生地を流す。
次から次へと、型に流すのは私。
焼きあがったら、型からはがし、
どんどんクリームを挟んでいくのは母。
もちろん、できあがったら、
ほかほかをその場で、二人でつまみぐい。
おいしいねって笑いながら。
ひとつの型で、二枚しか焼けないから
全部、焼きあがるまでには、時間がたくさんかかる。
だから、ワッフルを焼きながら、
母とたくさん話もした。
学校の話、友達の話、好きなことの話、
大きくなったら何になりたいか。
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兄たちが帰ってきたら、皆で、
お腹いっぱいになるまで、ワッフルを食べた。
そんな日は、きっと晩御飯が
あまり食べられなかったと思うのだけれど
叱られた記憶は、一度もない。
今では、私は、高級感あふれる上品な味の
カスタードクリームのレシピなんてものを
持ってはいるけれど、
母と一緒に炊いたクリームは、
それはそれで、とてもおいしかったなぁ、と思う。
おやつを作る時間は、幸せを作る時間。
おやつを食べる時間は、幸せを身体に満たしていく時間。
そんなこと、母は、一言も言わなかったけど。
母と一緒に作ったワッフルは、
私にそのことを教えてくれた。
今度、母に会うときには、
おかーさん、一緒にワッフル作るの
私、大好きだったよって、
改めて、もう一度、伝えてみようと思う。
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