紅茶専門店の気難し屋の店長4
気難し屋の店長3はこちら。
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その表参道の紅茶専門店で扱う紅茶は、
スタンダードな茶葉では、
ダージリンファーストフラッシュ、
ダージリンオータムナル、
アッサムフルリーフ、
アッサムBOP、
ディンブラ、
ヌワラエリヤ、
キームン、
ウバ。
香り系では、フレーバードティーにありがちな、
嫌な味が全くない、香りの豊かな北欧紅茶の
セーデルブレンド、
アールグレイスペシャル、
サージョンスペシャル、
スパイスブレンド。
それから、丁寧に入れた、
ロイヤルミルクティー。
それに、需要があるため、仕方なくメニューにある
ブレンドコーヒーと、カフェオレ。
雇われ店長のサトルさんは、
紅茶は、余計な香りの無い、スタンダードな味を楽しむ
クラシックティー派。
オーナー店長は、
北欧紅茶のスパイスブレンドが大好きで。
よく、オーナー店長は、打ち合わせに
一階の紅茶専門店を使っていました。
2、3階のビルの会議室に、ティーポットに入った
紅茶やコーヒーを届けることもありました。
都会の一等地で、いつもお店が空いているのに
高い材料を使って、優雅にお菓子を作っていられる
そんな不思議なお店でいられたのは、
利益をあげる必要のないお店だったから
なんだと思います。
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さて、紅茶入れの最初のステップは、
新鮮な空気たっぷりの水道水をやかんに入れて
沸かすこと。
お客さまがいらしたら、勢いよく水を足して
沸かし直します。
まず、紅茶入れ用のガラスのティーポットを
お湯で温めて、捨て、
茶葉をティースプーンで図って入れます。
フルリーフなら、大盛りで。
細かい茶葉は、控えめに。
ぐらぐらに沸いたお湯を、火傷しないように
気を付けながら、勢いよくティーポットに注ぎ
砂時計をひっくり返して3分間。
茶葉がジャンピングしているのを確認して、
泡が出て、茶葉が浮いて沈まなかったり、
すぐ沈んでしまったら、やり直し。
時間を3分、きっちり待って、
茶こしを通しながら、
お客様用の白いティーポットに注いでいきます。
フルリーフなら、ゆったり時間をかけて注ぎ、
最後に、一、二三、と、ゆるやかに大きく振って、
成分をしっかり出します。
細かい茶葉なら、速やかに注ぎ、
最後に、小さく、一、二と振って
苦み成分が出過ぎないように気を付けます。
お湯を注いで、そのままお出しするお店も
たくさんありますが、一番おいしい状態を
店員が作ってお出しする、それが
紅茶専門店ヒラソルのやり方。
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お客さまに、紅茶をお出しできるまで、
何回も何回も、サトルさんの指導のもとで、
紅茶入れの練習をしました。
茶葉が小さめのスタンダードなディンブラを
ティースプーンで量って、ティーポットに入れ、
お湯を注いだとたん、はーっと無言でため息をつく
サトルさん。
びくっとしながら、ガラスのティーポットを見ると
茶葉が全部浮いていたり、沈んでしまっていたり。
お湯が沸き足りないと、茶葉が浮いてしまいます。
沸かし過ぎると、空気が抜けて、
ジャンピングが起こらずに、茶葉が沈んでしまいます。
まもなく、お湯の湧くタイミングと
注ぎいれるタイミングは、掴めるようになりました。
ティーポットの中で、茶葉が上手に踊るようになったら
次は、注ぐときが肝心。
お客さま用のティーポットに注ぐスピード、
そして、最後の成分を出し切るリズムがとても大切。
入れた紅茶は、サトルさんに味見をして
いただくんですが、
口にする前から、
これは、ただの色つきお湯ですね、と
はっ、と鼻で笑う、サトルさん。
何度、これは、お湯ですね、とか
苦すぎます、とか、鼻で笑われたことでしょうか。
茶葉のムダです、と言われて、使った茶葉とお湯で
何度も注ぐ練習をしました。
サトルさんに、注いでるところを見せてください、
とお願いし、
何度も見ては、呼吸を合わせます。
大きい茶葉は、ゆったり注ぎ、一、二三。
小さい茶葉は、すーっと注ぎ、小さく、一、二。
おいしい成分は、すべて出し切り、
苦みの成分は、ガラスのティーポットに残します。
サトルさんの入れる紅茶は、いつでもおいしい。
いつでも酔う成分がしっかり出ていて、
香りが豊かに立って、それはそれは、おいしいんです。
私も、一口飲むだけで、微笑んでしまう
おいしい紅茶を入れられるようになりたい。
だから、何度、鼻で笑われても、背中でため息をつかれても
緊張しないように、
大きく呼吸して、何度も何度も紅茶を入れました。
帰りの地下鉄の中でも、あの言い方はないじゃない、と
悔しくて涙ぐみながら
心の中で、
大きい茶葉は、ゆったり注ぎ、一、二三。
小さい茶葉は、すーっと注ぎ、小さく、一、二。と。
サトルさんの紅茶をいれる姿を思い浮かべながら。
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ある日、サトルさんに、このタイミングだと
思った紅茶を入れ、味見してください、
とお願いしたところ。
味見の必要は、ありません。と。
思わず、どうして、と緊張する私。
でも、その後、ちゃんと紅茶を口にして、
はい、かこ、おいしいですよ、と笑いました。
それから私は、サトルさんに味見をしてもらうことなく
お客さまに、紅茶をお出しできるようになったんです。
次は、テイスティングの話です。
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